文京区の話
東京都文京区は印刷の街です。弊社のある白山町も、中小の印刷・製本所が、大通りからは奥まった道筋のあちこちに、間口を向かい合わせ、競うように励まし合うように、坂の最奥にまで軒を並べています。

印刷技術のデジタル化が進み、情報の加工には驚くほどの変化が起き、各種プリンターが印刷機を代行し、さらに簡便な綴じ(製本)加工まで仕上げるようになっては、昔からの職人技能はその活躍の場を奪われ、最近のこの町からは稼業の気勢が弱まって、ひっそりとした観が否めません。

消防法に抵触するような狭い路地もかなりありますが、多くの居住者は老齢化のため再開発には消極的なようで、地元の商店街にも活気がありません。商店街からは、真っ先に肉屋さんが姿を消していきます。お年寄りは小食のうえ、あまり肉を口にしないからと、うがった話を聞きました。

印刷業というのは、各種産業、商品、事業に付帯して発生する、宣伝・告示などの情報を加工する業ですから、自ら商品を生んでライン化し、大量に販売することは適いません。長引く不況の中で食を細くし、じっと耐えているのが大勢です。つまり、自治体の文京区も税収の激減に真っ青なのです。

唯一おかげさまで、といっていいのか、古びた家屋などがあちこちに残り、都心にありながら、フッと昭和の前期に迷い込んだ景観・情緒に浸れることがあります。心の落ち着くところなのでしょうか、この町は。アスファルトの都会に茂る緑のオアシスのように、文京が東京にあっての『ふるさと』のような存在になれるのでしたら、これはいっそ面白いぞ、と思うのですが、若い人たちはどう感じているものか。若人に支えられる、魅力ある町でなければ、活気も存続も危ういものとなってしまいます。

街を考える。「秋深し となりはなにをする人ぞ」。区内で最多・最大の印刷関連業は、商売のやり易い環境は作ったけれど、調和のとれた住み易い街づくりなどは、考えだにしなかった。「工業集積地域(印刷関連業)」であればこそ、まず第一に、騒音、道路占有、薬品汚染などの環境対策を含め、十分な近隣への配慮を心掛け、そして十年後、二十年後の文京はこうありたい、と願う幾条もの思い入れを複合的に形作る、ひたむきな意志が、私共の身の内から湧き上がらねばなりません。地域が果たすべき役割、文京の目指す地域作りを、紙面にではなく、地域という立体空間にデザインできたら、なんと素晴らしいことでありましょう。
 

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